ふたりの影を照らしたのは、夜風に揺れる夏の灯
メンバー 33ノート 19
蝉の声が止んだあとの、少しだけ静かな夜。金魚すくいの水音、焼きとうもろこしの甘い香り、人の笑い声に混じって、ぼくたちはゆっくり歩いた。「こんなに人が多いのに、なんか静かだね」そう言って笑った君の声が、不思議と胸の奥に残る。浴衣の袖が少し触れて、目が合って、それだけで何かが溶けた。誰にも見えない約束をしたみたいに、ぼくらの影が寄り添っていた。花火があがるその一瞬よりも、ぼくは君がうちわで顔を隠して照れたあの横顔を思い出す。夜風に揺れる提灯の灯りが、君のまつ毛に映って、世界がやさしい嘘をついたみたいに全部が綺麗だった。ぼくらはただ並んで歩いただけなのにどうしてあんなに心が騒いだんだろうね。夏はすぐに終わるって知っていたけど、それでも、この手を離したくなかったんだ。あれは恋だったのかもしれない。もっと曖昧で、もっと確かな何かだった。ふたりの影を照らしたのは、夜風に揺れる夏の灯。ただそれだけで、心が何度も、やさしく揺れた。 【三大厨厳禁・雰囲気重視・トラブル絶対厳禁】 #k也 ‧₊˚✩彡